『失敗の科学』感想|失敗から学ぶ組織と人のあり方を理学療法士が考える
はじめに:なぜ「失敗」から学ぶのか
マシュー・サイド著『失敗の科学』は、「失敗」に対する見方を根本から問い直してくれる一冊でした。医療、航空、スポーツ、ビジネス、科学──あらゆる分野の実例を通じて、失敗の本質と、そこから学ぶ力について深く掘り下げています。
理学療法士として、また教育にも関わる者として、「失敗をどう捉えるか」は日々の現場で切実な問いでもあります。今回は、この本を通して印象に残った言葉を紹介しながら、私自身の考えや経験を交えて振り返ってみたいと思います。
印象に残った言葉と私の気づき
「クローズド・ループ」とは、失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない状態を指す。逆に「オープン・ループ」では、失敗は適切に対処され、学習の機会や進化がもたらされる。
自分自身や職場、そして人間関係においても、常に「オープン・ループ」でいられるよう意識したいと思いました。
「患者が医師に完璧を期待するのも、我々の自負の強さが影響している。(中略)この『完璧』はもちろん、壮大な錯覚だ。」
「完璧な治療」を求められる場面で、期待と現実の間にあるギャップを説明する難しさを日々感じています。
「人の失敗から学びましょう。自分で全部経験するには、人生は短すぎます。」
他者の経験から学ぶという姿勢こそが、謙虚で強い在り方だと感じます。
「『ヒューマンエラー』の多くは、設計が不十分なシステムによって引き起こされる。」
ミスを責める文化から、仕組みを見直す文化へ。これは多くの業界に必要な視点です。
「失敗を見過ごせば、学習も更新もできないのだから。」
「小さな見逃し」がやがて大きな損失になる。だからこそ、今すぐ改善に動くべきなのです。
「我々が持つ航空知識の多くは、過去に誰かが命を落としたからこそ得られたものだ。」
医療も同じ。過去の失敗と犠牲を、次の世代に伝えていく使命を改めて感じました。
「クローズド・ループ現象の多くは、失敗を認めなかったり、言い逃れをしたりすることが原因で起こる。」
言い訳をせず、失敗を認められる人間になりたい。それが成長の出発点だと思います。
「科学は通説に異議を唱え、さまざまな仮説を検証して進歩してきた。」
理学療法も常に仮説と検証のサイクルの中にあるべきです。私もその一員でありたい。
「時機を逸したフィードバックは、直感的判断を向上させる効果が乏しい。」
フィードバックは“今”こそがベストタイミング。後輩指導の中でも実感しています。
「『私に問題があるかもしれないから、直してほしい』と言える状況がなければいけない。」
こういう空気を作るには、安心感と信頼の土台が必要。まずは自分から動きたいです。
「失敗を学びに変えるには、システムとスタッフの両方が必要だ。」
良い仕組みがあっても、声を上げなければ何も始まらない。そのバランスが大事です。
「まず試行錯誤がテクノロジーを生み、そこから科学理論が誕生した。」
実践が先、理論は後。これは現場で感じる真実です。
「ボトムアップの改善は面倒だからと軽視されがちだ。」
でも、現場から生まれる改善こそが最も確かな道です。
「ベッドルームでひたすら考え抜けば最適解が得られるという誤解。」
頭の中だけで完結する思考に陥らないよう、自分にも戒めたいです。
「失敗への恐怖から閉ざされた空間に閉じこもっていては、前に進めない。」
恐れず行動する。その勇気を持ち続けていたい。
「小さな改善の積み重ねですよ」
何度も聞いた言葉ですが、それでも本質はここにあると感じます。
「複雑な世界から学ぶには、その複雑さと向き合わなければならない。」
シンプルに決めつけず、粘り強く掘り下げること。それが本当の理解へつながると思います。
「まず自分たちの失敗を認めない限り、我々はそこから学ぶことはできない。」
変化の第一歩は、正直な自己認識から。
「公正な文化では、失敗から学ぶことが奨励される。」
失敗を恐れるより、語れる環境づくりを。
「失敗は『してもいい』ではなく『欠かせない』。」
この本が伝えたい最大のメッセージ。胸に刻んで、これからも歩んでいきたいです。
おわりに
『失敗の科学』を読んで、失敗は恐れるべきものではなく、「進歩の材料」だという視点に立てたことは大きな収穫でした。完璧を目指すのではなく、失敗に学ぶ。現場で、家庭で、社会のなかで。そんな姿勢を貫くことで、誠実に、少しずつ前に進んでいきたいと思います。
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