顔面神経麻痺を経験した理学療法士の記録|発症から半年の経過と今
顔面神経麻痺を発症してから約半年が経ちました。
現在はほとんど回復し、口も水をこぼさずゆグチュグチュできるようになり、カモフラージュの伊達メガネも外しました。
半年という節目で、右の顔面の筋肉が全く動かなくなったあの日を懐かしく思います。
いま、まさにその不安に直面しているあなたに、ぜひ読んで欲しい、聞いて欲しいです。
1. 発症直後〜急性期(0〜10日)
ある朝、寝起きの口をゆすごうとしたとき、口から水がこぼれてしまい「???」と驚きました。
鏡を覗くと、右側の顔が垂れ下がり、笑っても口角が上がらず、目も完全には閉じられない状態でした。心臓の「ドクドク」する音が聞こえました。
手足に麻痺がないことを確認し、「末梢性の顔面神経麻痺の可能性が高いな、脳に異常がないといいな」と思いながら「起きて!顔が動かないのよ」と、寝ている妻を起こし、病院へ救急受診しました。(あの朝起こされたのは一生の思いでと、今では笑い話となっています)
医療機関では、脳卒中などの中枢性疾患を除外するためにMRIとCTを実施し、脳に明らかな異常は見られませんでした。
さらに、ウイルス性の可能性を探るための血液検査と、アブミ骨筋反射の検査が行われ、結果としてヘルペスウイルス由来の顔面神経麻痺である「ベル麻痺」と診断されました。
服薬治療が始まりました。
以前はステロイドを点滴で投与することが一般的でしたが、現在は内服での投与が可能となり、毎日の通院は必要ありませんでした。
(早期にステロイド投与ができたかどうかが予後を左右します。とにかく早く病院へ!)
飲んでいた薬は以下の通りです。
・プレドニン: 発症初日〜約10日間(漸減投与)
・バラシクロビル錠: 発症初日〜約7日間
・メコバラミン錠、アデホスコーワ顆粒: 発症直後〜半年間
発症から9日目には神経伝導検査(NCS)を受けました。誘発電位の振幅や潜時を左右差で比較することで、神経の損傷の程度や、回復までの見通しがある程度わかってきます。
私は30〜50%でした。(目の周りの神経は50%、口元周りの神経は30 %程度でした)
検査についてはこちらも見てみてください →
顔面神経麻痺の神経伝導検査(NCS)とは?|発症12日目の理学療法士が検査結果と予後への不安に向き合う
2. 回復期前半(10日〜3ヶ月)
発症から13日目には仕事に復帰をしました。仕事復帰後は、体力の低下や(ステロイドを大量に投与するため)、「笑顔」を作るのが難しい事に苦労をしました。笑おうとすると、片側だけ引きつったようになって、うまく笑えません。笑うと「ドゥフ」って、音がでてしまって、自分の口から「ドゥフ」と聞こえる度に、「ああ、まだ麻痺してるな」と実感してました。人と話してるときは「恥ずかしいな」「みられたくないな」「あまり話したくないな」と感じていました。
発症から19日目頃からやっと、まったく動かなかった右側の顔の筋肉が、ほんの少しですが反応を見せてくれるようになりました。
右の頬の筋がピクッと動いたり、まぶたを閉じるときの眼輪筋がわずかに反応したり。
たったそれだけのことなのに、まるで希望の光が差し込んできたような気持ちになったことを懐かしく思います。
神経のつながりがある!今はまだ細く、弱々しいし、目をピクピクさせられるだけだけど、そこに「生きている神経」があるということが、何より嬉しく感じました。
この時期は、神経の回復を妨げたり、目を閉じようとした際に口角まで一緒に引きつってしまうような異常な連絡経路が形成される可能性があるため、日常生活の中で無理に顔の筋肉を動かしすぎないように心がけました。
この頃は仕事には復帰しており、家に帰れば育児もあります。生活は元に戻りつつあるのに、ストレスを発散する手段だった趣味だけが戻っておらず、気づけば、どんどんストレスが溜まっていく日々でした。僕は顔面神経麻痺の発症原因のひとつに“過剰なストレス”があるのではと感じていました。にもかかわらず、ストレスを発散できない状態が続く。これは本当にまずいかもしれない、と焦りのような気持ちも生まれてきました。
1ヶ月検診が終わった頃から、趣味のランニングやサウナを徐々に復活させていきました。サウナでの血流の変化や、ランニングで疲労ためて神経の回復を遅らせないかな?など不安な気持ちもありましたが、「ストレスを溜めない」を優先しようと考えました。
サウナやランニングを再開した後も、日に日に顔の動きの改善があり、これは引き続きストレスを発散しながら、経過を追おうと思いました。
顔面神経麻痺から1ヶ月半|頬・目・下顎にも動きが戻り始めた今、感じていること
3. 回復期後半(3ヶ月〜半年)
3ヶ月ほど経つ頃にはウィンクができるようになり、頬も目に見えてわかるほど動かせるようになりました。しかし、歯磨き終わりに口をゆすげば水は飛び出て、鼻周りの筋肉は全く反応ない状態でした。
この時期も日常生活の中で無理に顔の筋肉を動かしすぎないように、ストレスを溜めないようにを心がけました。
5ヶ月ほど経った頃には口をゆすいでも水が飛ばなくなり、鼻の周りの筋肉だけが動かない程度で、細かく見ようとしないと顔面神経麻痺だったことが変わらない位に改善しました。
顔面神経麻痺になってから愛用していた伊達メガネともおさらばし、「この位の麻痺なら少々残っても生きてけるな」と、気持ちにも余裕が生まれてきました。
4. リハビリについて
リハビリで大事なのは、あまり無理に筋肉を動かしすぎないことです。「ちょっと動いてきたかな」と確認するくらいで十分。皮膚や筋肉の柔らかさを保つこと、血流を良くするために軽くマッサージすることも役立ちます。
それと同じくらい大切なのが、日々の生活です。ストレスをためないこと、しっかりご飯を食べること、そしてよく眠ること。こういう基本的なことが回復を助けてくれるんですよね。
病院によっては、動かない筋肉や神経に電気を流す治療をするところもあります。ただ、理学療法士としての自分の考えでは、それは神経の回復を遅らせてしまう可能性があるのでやっていません。今の自分の回復の状態も、その判断の上にあると思っています。参考になればうれしいです。
5. 半年経った今の状態と課題
瞬きの感覚や笑顔の左右差や収縮の弱さが残る
現在も、日に日に動きが、良くなっています。
リハビリの方向性としても変わらず、安静にしながら、無理な運動をしないように、動いてきた分を正しく動かす。ということを継続していきたいと思います。
6. 同じ症状で悩む人へのメッセージ
顔が動かない。というのは、日常生活において思ったよりもダメージがあることを知りました。
人と会うことや、話すことが嫌になったり、目を合わすのが嫌になったり、人前で食事を食べるのが恥ずかしかった事を思い出します。
自分にとって弱い部分ができたことで、さらけ出せない弱さを感じました。
ただ、その弱さは、誰かの弱い部分を理解できる、受け入れれる、共感できる強さになると、理学療法士という、仕事柄とても思います。
顔面神経麻痺は多くの場合回復が見込まれる病気です。
回復には時間がかかりますので、焦らず、無理せず、日常生活を整え、健やかな日々を重ねて行くことが一番大切だと思います。
7. まとめ
とにかく早く病院へ行くこと!
発症したらすぐに受診し、できる限り早期にステロイド投与を受けることが、回復の大きな鍵となります。
回復には時間がかかる
多くの場合は改善していきますが、数週間〜数ヶ月単位の「長期戦」。焦らず、少しずつ変化を実感していきましょう。半年以上かかる報告もありました。
無理な運動は逆効果になることも
過剰な収縮は「異常な神経経路」を作ってしまうリスクがあります。
→ 動き始めは“確認程度”、循環改善のための軽いマッサージで十分。
生活の整えがリハビリの一部
ストレスをためない、栄養を摂る、しっかり眠る。この基本が神経回復を助けます。
一人で抱え込まないこと
回復を待つ時間は長く不安ですが、家族や周囲の理解と支えがとても大きな力になります。
「焦らず、無理せず、日常を大切に」
半年を経験した僕が一番伝えたいことです。
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